北のカナリアたち

ボブ・マリ

2012年11月23日 20:33

2012年11月23日(金)

今日はもう一本,映画を見た。
阪本順治監督の「北のカナリアたち」。

阪本順治も素直になったな,とこれまた,イーストウッドに対して感じたのと似た感慨を持った。

前作「大鹿村騒動記」は,世間の評価はよかったが,私はあまりいいと思わなかった。
それより,その前の「行きずりの街」が私にはよかった。
その作品からすでに感じるようになっていたが,世間に斜に構えていた風だったのが,だんだん,愛や赦しの可能性を見つめるようになった,と,思う。

「行きずりの街」を私は失われた時間を回復する物語,と見たが(ココ),本作もその延長上にあると言っていいだろう。

その「行きずりの街」で主演した仲村トオルが,本作でも重要な役どころで出てくる。
「行きずりの街」の仲村トオルの演技を私は絶賛して,とくに足の演技にあらわされたやるせなさに注目したが,今回も,あるシーンで,この男の虚無を,背中で表現していて,はっとした。
映画のなかで,ベストのシーンだった。

吉永小百合,40代の若づくりもさほど不自然にみえず,メーキャップは山田洋次の「おとうと」よりうまいと思う。
40代だった20年前と60歳の現在を,映画はいったりきたりするが,その二つの時間を分けるのは,メークの違いと髪形だけで,同じコートと同じマフラーをしているので,区別がつきにくいのであった。
あ,あと,足元が60歳現在ではロングブーツになってる,か。
20年のあいだ同じグレーのコートを着続けているというのは,つましい生活を続けてきたことを示すのと同時に,主人公のハルが,20年前を忘れていない,彼女の心の中には20年前の出来事が生き続けていることを示すのであろう。

吉永小百合の元教え子たちは若手の実力派そろい。
全員そろったシーンを見て,なんとなく役者としてのライバル意識みたいなものが,ちょっと透けてみえる気がした。
内的にはバチバチの関係だったんじゃないだろうか。
なかでも森山未来が,なんといっても,吃音のある,家庭環境にめぐまれなかった青年を演じて,出色だったと思う。

子どもたちの歌声の美しさと,礼文島から眺める利尻岳の雄々しい美しさが,とても印象深かった。
撮影は「剱岳 点の記」を監督した木村大作。
子どもたちが美しくハモりながらお花畑を歩くシーンは,黒澤の「野良犬」の終盤,遊佐が逮捕されるのと対比的に幼稚園児の呑気な歌が流れるシーンを思い出させた。

あいかわらず,東映の映像のコントラストは浅い。



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