2012年11月23日

Trouble with the Curve ~人生の特等席~

2012年11月23日(金)

クリント・イーストウッド主演「人生の特等席」を見た。

イーストウッド,最高!
「グラン・トリノ」が役者としての最後の作品かも,とにおわしたりしていたけど,とんでもない。

今年の映画の,マイベストだ。

うまくいかない関係の父と娘が,父のスカウト業のための旅を同道する。
筋はシンプル,道具立てに目新しいものはない。
そして,そこで繰り広げられる深みのある芝居。

ネタばれありなので,改行します。















イーストウッドが泣くのを見るのは,私,初めてかもしれん。
「ミリオン・ダラー・ベイビー」で愛弟子の不幸に出会って,その最期を迎えさせる決意をするときも,涙はなかったと思う。

イーストウッド演じる老スカウトマン,ガスは,今までのイーストウッドの演じた主人公と共通して,頑固もんで,絶えず不機嫌で,へそまがりではあるけれど,どこか素直さというか,オープンマインドな感じがある。そういう役をやってもいい,とイーストウッドが思うようになったのかな。
監督は初監督作品なんだそうだが,長年イーストウッドの映画の共同プロデューサーを務めてきたということだから,イーストウッドの機嫌も趣味もよく心得ているのであろう。
そしてその盟友の初監督作品だから,イーストウッドもちょっと心を開いて見せた,っていうことかな,などと想像する。

ガスは「ミリオン・ダラー・ベイビー」や「グラン・トリノ」とも共通する,屈折した人生終盤の男。
人間関係に不器用で,家族とうまくいかない,スカウトにとってイノチといえる視力を失いかけて,クビもちらつく。
一方,努力に努力を重ねて弁護士としてのステップアップにたどりついた娘ミッキーは,しかし恋愛には臆病。

ロードムービーとしては,甥っこと旅する酔いどれカントリー歌手を演じた「センチメンタルジ・ジャーニー」を思いださせる。

映画終盤でもたらされる,この父娘とのやりなおしの可能性の示唆,娘のスカウトとしての才能の開花,そして娘自身が過去の歴史からココロに隔てをつくって他者とオープンマインドにつきあえない~それを,心に available spaceがない,という表現をしていた。アメリカで有名な通俗心理学本の表現なのかな~でいたところから,新しい恋にへと踏み出す一歩,それらは,九回裏満塁逆転ホームランといえよう。

イーストウッドも,娘役のエイミー・アダムスもよかったし,また,娘の恋の相手で,元大リーグ投手(しかも父がスカウトした選手),現スカウトの男性役のジャスティン・ティンバーレイクが,チャーミングだった。

ところで,原題は Trobule with the Curve.

このフレーズは,映画の最後の最後に,出てくる。
ガスがスカウトすべきかどうか見極めるべく,試合を見続けた高校生強打者ボーについて,ガスがとるべきでないと最終的に下した判断を無視して会社はドラフトで一位指名。入団したボーの前に,ミッキーがスカウトしてきた名もないピーナッツ売りの少年があらわれ,ボーと対決,カーブを投げて空振りを撮り続ける。
それを見てガスが

trobule with the curve と言う,やつはカーブが打てないんだ,と。

文字通りカーブが苦手,というだけじゃなくカーブに寓意もあるのだろう。
curveは,曲線なので,ガスが道を曲がろうとして,よその車にぶつけた,そのエピソードもかけてあるのだろう。そして人生の曲がりくねった道で難儀してきた,という父,娘それぞれの歴史も示唆するのかな。




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Posted by ボブ・マリ at 19:54│Comments(0)映画
 
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